うつ病は、糖尿病や高血圧などのほかの病気と同じように、できるだけ早く見つけて治療を始めることが、患者さんの回復を早める上でとても大切です。しかし、うつ病の症状である「気分の落ち込み」や「イライラ」、「何に対しても興味が持てない」といった変化は、しばしば本人の性格や気の持ちようの問題、または「怠けているだけ」と周囲から誤解されることが少なくありません。そのため、本人や家族、時に医療者でさえも、最初はうつ病を「病気」と認識せず、発見や治療の開始が遅れてしまうことがあります。実際、多くの場合、うつ病と診断された時には、すでに症状が悪化して日常生活に大きな支障が出ている状態となってしまうことも少なくありません。
日本では、精神疾患を周囲に知られたくないと感じる文化的傾向が強く、うつ病などの心の病気について話しづらい雰囲気があります。そのため、うつ病を「病気」として正しく捉え、早い段階で治療につなげることが難しいままになっていることが、社会的な課題として認識されています。
うつ病の早期発見・診断を助けるために、「DSM-IV精神疾患の分類と診断の手引き」という国際的に使われている診断基準があります。これは精神科医をはじめとした医療専門職が、症状や経過を詳細に確認し、正確な診断を行うときの指標として活用している専門書です。
具体的には、うつ病の「大うつ病エピソード」の診断に必要な9つの症状の有無を評価します。ここで「大うつ病」の「大」とは、「代表的な」「典型的な」という意味で、症状の重さではなく一般的な診断基準であることを示しています。
ご家族の皆さまには、うつ病は単なる本人の気の持ちようや努力不足によるものではなく、医学的にも明確な診断基準と治療方法があるれっきとした「病気」であることをぜひ理解していただきたいと思います。そして、うつ病の主な症状や特徴を知ることで、もし大切な方がいつもと違う様子を見せていたら、早めに相談や受診に結びつけることができます。患者さんご本人のみならず、ご家族のサポートがとても大切です。ご家族の皆さまにぜひご理解いただきたいのは、うつ病は決して本人の努力不足や性格の弱さによって起きるものではなく、医学的に診断基準や治療法の定められた「病気」であるということです。うつ病の特徴や症状について知識をもっていただくことで、ご家族やご友人がふだんと違う様子を見せたときに、早めに専門家へ相談や受診につなげることが可能になります。なお、治療や回復のプロセスでは、ご本人だけでなく、ご家族の理解と支援が非常に大きな役割を果たします。
DSM-IVによる「大うつ病エピソード」診断基準チェックリスト
DSM-IV(『精神障害の診断と統計マニュアル第4版』)では、うつ病の診断のために「大うつ病エピソード」の9つの症状リストを用いています。以下の表で、該当する症状にチェックを入れてみてください。
症状項目 | 内容 | 該当する場合は✔ |
---|---|---|
1 | ほとんど1日中、ほぼ毎日「気分が落ち込んでいる」と感じる | |
2 | ほとんどの活動に興味や喜びがわかなくなる | |
3 | 体重が著しく減少または増加する/食欲の変化がある | |
4 | ほぼ毎日、不眠または過眠になる | |
5 | ほぼ毎日、動作や話し方が遅くなったり焦るように感じる | |
6 | ほぼ毎日、疲れやすい/エネルギーが減ったと感じる | |
7 | ほぼ毎日、自分に価値がない、極端な罪責感を感じる | |
8 | ほぼ毎日、考える力や集中力が低下する/決断ができない | |
9 | 死について頻繁に考える/自殺を考える |
チェック方法と診断の目安
- 上記のうち、少なくとも5項目以上が2週間以上続けて当てはまり、「1」または「2」のどちらかが必ず含まれている場合、大うつ病エピソードが疑われます。
- チェックが複数当てはまる場合は、医療機関への相談をおすすめします。
注意点
このチェックリストは自己診断を目的としたものではありません。気になる症状がある場合は、精神科や心療内科の専門医にご相談ください。ご家族のみなさんも、一人で抱え込まず、周囲や専門家のサポートを得ることが重要です。
日本うつ病学会「DSM-Ⅳによるうつ病診断基準」
厚生労働省 こころの情報サイト「うつ病の診断と治療」